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■    『なぜもっと売れないのか』 最新の経済学
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▲昔、インフレ悪魔。今、待望の女神

昭和44年アポロ11号が月面着陸を成功させて、「あの影はウサギさんじゃないよ」

と言われた頃から、日本はインフレを経験していました。ニクソンショック、オイルシ

ョック、円高ショックの連続でも、「第3の帝国日本」と呼ばれるほど成長を続けてい

ました。当時から、インフレーションは社会的な不平等を生むとして、悪魔と言われて

ました。この前までデフレが悪魔と言われていました。だから、物価の上昇を期待して

インフレターゲットが叫ばれています。いわばインフレ待望論です。ここまで土地と株

価が下がり、金価格も低迷なら、給料を上げるためには物価を上げるしかない。
そして、設備投資をばんばんやってもらおうじゃないか、と新札をこっそり多めに印刷

しているとか。市況に貨幣がどんどん流れてくると、インフレになると経済学で定義し

ています。

●デフレの反省

デフレの原因は、供給過剰だから内需を高めなければならない と新聞が書きます。
そうはいっても、家計は給料カットで苦しいから「あと一つ余計」に買うことを控えて

しまいます。そして、銀行を救うために税制が変わりそうで、実質増税もやむを得ない

と新聞にやはり書かれています。不良債権問題と内需を高めるための家計への配慮は、

どうもつながらないどこかにおかしさが残ります。
価格は、需要と供給で自然に決まる と高校で習いましたよね。そのような経済学を市

場論と呼んでいましたが、現実は市場論では説明できない動きをしていました。経済学

の破綻とか、新しい経済学が必要とされたのだ と説明しています。

▲ナッシュ均衡とは

需要と供給で確かに価格は決まるけれど、一度決まった価格を下回る「供給者」がもっ

と売りたいと考えて登場すると、いっきに価格が下がり、その後そこで安定してしまう

ことを、『ナッシュ均衡』と呼びます。数学者でもあったジョンナッシュが唱えて、応

用範囲が広いということで1994年ノーベル経済学賞を受けました。
「下値保証 コジマ」と新聞全面広告でもおなじみの手法です。価格を下げた分、たく

さん売れているのでしょうか。売れなくても価格を下げたら、どうなるんでしょう。

●もう一つの均衡

需要と供給は、価格と量を軸としたグラフでは右上がり、左上がりの直線で交差して価

格が決まる と市場論では説明します。では、供給曲線が左上がりではなく、ブーメラ

ンのようなU字だったらどうなるか。需要曲線と安値と高値の2箇所で交わるか、もと

もと交わらないで2つの曲線が離れてしまうことになります。
こっちの方も、「思ったより安いところで価格が均衡する」もっともな理由になります。

これは、スティグリッツとアカロフが「レモン市場論」というので、一昨年ノーベル賞

を受けました。

▲レモン市場論

「情報の非対称性と均衡」 というのが理論なのですが、アカロフの「レモン」が分か

りやすく話題になりました。レモンは、新鮮なのか腐っているのか見た目では分からな

い果物です。アメリカでは、中古自動車のことをレモンと呼んでいます。”レモン”は

事故車かどうかは、売り手しか知らないので買い手は「安すぎるのは事故車(と予測で

きるので)」だから、高い車を買いたがる。きっと大丈夫だろうから。
売り手にしてみれば、「(もっと高く売れるかもしれないが)売れ残るより、早く売っ

た方がいい」として、安い価格で妥協してしまう。買い手の期待価格の安い方に、供給

を合わせてしまう態度を取るからだ。とあります。


●どんな情報の、非対称性?

中古車は、確かにそれが事故車であるかどうかは、売り手にしか分からず、買い手はど

んな宣伝文句や人柄のいいセールスマンでも信用せずに、価格で品質を予測しますね。

この「予測や予想」の元になる「事故車である確率」という情報が、市場では買い手に

とって非対称というのです。

●安売りと信用の誤り

小売りの格言に、「売れ筋、見せ筋、育て筋、死に筋」と商品をランク付けすることが

ありますが、安売りは量を稼いで儲けることができなければなりません。たくさん売る

ことではなく、仕方なしに安売りすると価格は伝わっていき、相場になってしまう。
良い品質で十分な価値と価格である という情報が、買い手に伝わらないと、不良品を

安く売り逃げる売り手が価格を先取りして、これも相場になります。信用を売り込もう

としても、それを買い手に伝えられなければ、他人に価格を握られるというわけです。


●売れないのは戦略ミス

供給過剰だから、競争者も多く、中には不心得者もいるさ と投げるより、操作によっ

て作り上げられた相場価格に、安易に追従してはいないだろうか。
正しい品質の情報を買い手に伝える努力を怠って、自ら価格を押し下げる結果を招いて

はいないだろうか。
自分と顧客、自社と市場の取り組みを戦略といいますが、市場での自社の差別化宣言と

いいます。ここに失策がなかっただろうかと振り返ることも必要ですね。相場価格とい

う魔物に恐れるより、「仕入れて喜び、売りて喜ぶことこそ、商売なり」といった松下

翁を思い出してみてはどうでしょう。
新しい価格は、買い手を納得させられれば、あなたが決められるのです。


■筆者著作紹介
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